相続登記義務化の救世主か!「所有不動産記録証明制度」

「亡くなった父が、実は遠方に土地を持っていたかもしれない……」 そんな不安や手間が、今日から劇的に解消されるかもしれません。

本日、2026年・令和8年2月2日より「所有不動産記録証明制度」の運用が開始されました。これまでは各自治体を回って「名寄帳」を集めることが多かった不動産調査が、ついに「法務局での全国一括検索」という新時代に突入します。

今回は、税理士の視点から、この制度が実務や私たちの生活にどう影響するのか、その本質を整理します。


1. 「点」から「面」へ。名寄帳との決定的な違い

これまで、被相続人の不動産を調べるには、心当たりのある各市役所へ「名寄帳(なよせちょう)」を請求しに行く必要がありました。

  • これまでの限界: 「その自治体の中」にある不動産しか分からない。
  • これからの常識: 法務局の窓口一つで、「日本全国」の所有不動産がリスト化される。

まさに、宝探しを「勘」に頼っていた時代から、GPSを導入したような大きな転換です。

2. なぜ今、この制度が必要なのか?

背景にあるのは、2024年・令和6年から始まった「相続登記の義務化」です。 「持っていることを知らない不動産」であっても、登記を放置すればペナルティ(過料)の対象になり得る今の時代、この制度は相続人にとっての強力な防衛手段となります。

  • 隠れた「負動産」の発見: 遠方で固定資産税がかからず通知も来ないような不動産でも、登記さえあればリストに載ってきます。
  • 把握漏れリスクの低減: 相続税の申告において、不動産の見落としは致命的。相続財産の把握漏れ対策としても機能します。

3. 【専門家の眼】ここに注意!「住所の壁」

非常に便利な制度ですが、実務家として見逃せないポイントあります。それが「登記簿上の住所」の問題です。

この制度は、法務局が「氏名」と「住所」でシステム検索を行うものです。 もし、被相続人が30年前に不動産を購入したきり住所変更登記をしておらず、その後数回引っ越しをして亡くなった場合、「亡くなった時の住所」で検索しても、古い住所のままの不動産はヒットしません。

ポイント: 漏れをなくすには、戸籍の附票などで過去の住所履歴を遡り、「かつて住んでいた全ての住所」を条件に入れて検索するのが、上手な活用術です。


結び:相続を「霧の中」で終わらせないために

本日始まったこの制度は、相続という複雑なプロセスに「透明性」をもたらす大きな一歩です。

「どこかに土地がある気がするけれど、調べようがない」 そんな理由で手続きを止めていた方は、ぜひ一度、最寄りの法務局で相談してみてください。

所得税法第37条の静寂を破る ― 個人事業主の「未払賞与」経費化の法理

1. 「法人税の常識」は所得税でも通用するか?

「決算賞与の未払計上」。 法人税の実務では、施行令に定められた要件を満たせば、キャッシュが出ていなくても当期の損金に算入できることはよく知られています。

では、所得税・個人事業主はどうでしょうか。「年末特別賞与を年明けに支給したいけど 個人にはそんな施行令、ないよね?」「実際に年内に払わないとダメでしょ?」という消極的な声が聞こえてきそうですが、実はそこに大きな「知の空白地帯」があります。

2. すべての根拠は「所得税法第37条」にある

なぜ、明文化された施行令がないにもかかわらず、未払賞与が経費になり得るのか。 その答えは、所得税法の背骨とも言える第37条(必要経費)に集約されます。

その年において債務の確定しないものを除く、これが所得税における「債務確定主義」の宣言です。 法理的に言えば、12月31日時点で「債務が確定」していれば、それが未払いであっても必要経費に算入されるのは、所得税法の構造上、至極当然の帰結とも言えます。

3. 「未払賞与」を必要経費で落とすための3つの鉄則

「債務が確定した」には、客観的な事実の積み上げが必要です。法人税の基準を援用した、以下の3つのプロセスが必要となります。

  • 【確定】12月31日までの個別通知 支給額を各人別に、かつ同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知していること
  • 【完結】1月31日までの支払い 年明け1ヶ月以内の支払い
  • 【記載】当期帳簿への未払計上 「発生主義」に基づき、12月31日付で未払金として処理

4. 専門家が注視する「専従者(家族)」の境界線

ここで、所得税法第57条(専従者給与)の壁が登場します。(青色事業)専従者給与は支払うことで必要経費に算入されます。

  • 一般スタッフ(非親族):原則である第37条(債務確定主義)が適用される。
  • 専従者(家族)第57条が適用される。(現金主義)

所得税法第57条は、(青色事業)専従者への給与・賞与について「支払を受けた金額」であることを要件としています。つまり、家族分だけは未払計上での必要経費処理が認められず、年内の現預金支給が条件となります。

この「37条」と「57条」を峻別して使い分けることこそが、知的なタックスマネジメントの真髄です。「専従者は年末特別賞与の対象外ですよ」 このケースであれば37条のみの対応になります。

5. 結びに:組織化された個人事業主のために

個人医院や歯科医院のようなクリニック、士業事務所、理容・美容など、家族以外のスタッフを雇用する現場において、未払賞与の計上は極めて健全な「期間損益計算」の会計処理です。

「あまり聞かない話だから」と敬遠するのではなく、法の原則に立ち返る。 所得税法第37条の静寂の中に眠る正当な権利を、正しく行使してみてはいかがでしょうか。

「退職所得控除の調整規定の見直し」 がいよいよ始動!税理士が読み解く、制度の本質と実務のツボ

2026年・令和8年、今日から仕事始めというビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。 新しい手帳を開き、今年の目標に強い思いを!そんな清々しい新年のスタートに、早速ですが、本年1月1日から適用されるニュースをお届けしなければなりません。

退職所得控除額の調整計算の見直し、つまり「DC一時金→退職一時金」のケースが、本年1月1日以後に受け取る退職手当等について適用されます。

「えっ、新年早々、増税の話?」と眉をひそめないでください。この改正、単なる「計算ルールの変更」ではありません。企業の退職金実務、そして個人の資産形成戦略の根幹に関わる、まさに構造的なパラダイムシフトなのです。


1. 「5年ルール」の終焉と「10年ルール」の真実

これまで、iDeCoや企業型DC(確定拠出年金)を一時金(老齢一時金)で受け取り、その後「5年以上」空けて会社の退職金を受け取れば、退職所得控除の枠を事実上「再利用」できていました。「重複期間の調整計算なし」ってヤツです。

しかし、本年からは、この間隔が「10年(前年以前9年以内)」に延長されました。今までなら、例えば60歳でiDeCo一時金、65歳で会社退職金 それぞれフルに退職所得控除額を使えていましたが、このケースだと70歳以降に会社退職金を受け取らないとフル適用できない(重複期間の調整が適用される)ことになります。

「国が節税を封じに来た」と感じるビジネスパーソンも多いかもしれませんが、私はもう少し深く捉えています。 これは、働き方の多様化(転職の増加、定年延長)と、iDeCo・NISAといった自助努力支援制度の普及を背景にした、「課税の公平性」を再定義するための構造改革です。短期間での控除の二重取りを是正し、長期的な資産形成を促すという制度趣旨への回帰と言えるでしょう。

【超重要】ここが実務の分岐点!「小規模企業共済」は改正なし

ここで、声を大にしてお伝えしたいポイントがあります。 今回の「10年ルール」の対象は、あくまで「確定拠出年金法の一時金」を先に受け取った場合です。

中小企業経営者や個人事業主の強い味方である「小規模企業共済の老齢給付(一時金)」については、今回の改正対象外!従来通り「5年ルール」が維持されています。(中退共も同じく

  • DC一時金 → 退職金:間隔は10年必要(厳しい!)
  • 小規模企業共済 → 退職金:間隔は5年でOK(据え置き!)

この違い、実務では決定的な差となります。出口戦略の練り直しが必須です!


2. 事務負担の増加

その1:書類の保存期間が「7年」から「10年」へ

10年ルールに合わせて、「DC一時金に係る退職所得の受給に関する申告書」の保存義務が10年に延長されました。過去の記録をより長く、確実に保管する体制が求められます。

その2:源泉徴収票の税務署提出が「全員」に!

これまで、退職所得の源泉徴収票を税務署へ提出するのは、「役員」のみでした。 しかし、これからは「従業員を含むすべての受給者」の源泉徴収票を、税務署(と市区町村)へ提出しなければなりません。

総務・人事部門も影響があります。 中途採用者の退職金計算時に、「前職でDCを受け取っていないか」を10年遡って確認するフローの構築、退職所得に係る源泉徴収税額の計算方法(重複期間があるパターン)を再確認しなければなりません。


3. 新時代の幕開けに、賢明な対応を

いかがでしたでしょうか。本年の改正は個人のライフプランにも、企業の管理部門にも、静かですが変化をもたらします。

  • 個人は、退職金の受け取り順序を再シミュレーションする。
  • 企業は、事務フローの再構築、退職所得控除の計算方法の確認。(源泉徴収税額に影響)

変化をチャンスに変える、賢明な一歩を新年から踏み出していきましょう。 今回の記事は本年1月5日時点の状況を基に作成しています。